始業時間前の体操は業務?

先日、大手自動車メーカースズキが、始業前に実施していた体操について、労働基準監督署の調査により「それは業務である」とされ是正勧告を受け、未払い賃金約1,000万円を支払ったというニュースが流れました。

これは個人的な感覚になりますが、私が若い頃は、朝会社に行って始業前に机を拭いて掃除をし、体操と朝礼をしてから仕事に入るというのは、なんとなく当たり前で、それが仕事であるとか、ないだとかは、あまり気にしたことがなかったように思います。
が、当然、その当時からこうした始業前の作業着への着替え、ラジオ体操、朝礼などについて、それが業務にあたるのかどうかという基準はあったわけです。

しかし、私たちのような中高年層の中には、上述したような若い時の体験に伴う感覚などから、「そんな固いこと…」というような感じでついつい曖昧にしてしまっているようなことが多いのではないでしょうか。
また、組織的な雰囲気で、最初に違和感を感じた人がいたとしても、 なんとなく言えない感じで次第に当たり前になっていく…そして、結果的に暗黙の了解によって問題とならずにいる…ということが起きたりするのです。
で、何も起きなければ良いのかもしれないですが、今の時代、中途で入社する人や、契約社員、派遣社員といった繁忙期のみ働いてもらう期間限定の社員など雇用の流動化が当たり前になっている状況があります。また、ネット社会の普及などによってそうした「おかしい」と感じたことをいろいろな形で発信する人がいる確率が昔に比べて高くなっているということなどにより、何かが起きる確率も上がっているということを忘れてはならないでしょう。
だから…というと語弊があるかもしれませんが、会社は、今いる自分たちの中では当たり前だけれども、社会通念上見たら「おかしい」と言えることをなくしていく必要があると言えるのです。

ということで、今回のスズキのような所定時間外の「これって業務なの、業務じゃないの」というものに関する判断基準について、少し考えてみたいと思います。

まず、所定時間外におけるこのような行為に関しては、業務になる場合も、業務にならない場合もあるという…ある意味グレーな部分があるということを理解しておく必要があります。
そして、それを前提にした時に、どのような場合が業務になるのかという基準、つまり労働時間の定義を理解しておく必要があります。

【労働時間の定義】

●労働時間とは、労働者が使用者(会社)の指揮命令下おかれている時間を指す
●労働者が使用者(会社)の指揮命令下におかれているか否かについては、客観的に判断されるもので、労働契約や就業規則等によって定義されるものではない

※三菱重工業長崎造船所事件(最-小判平12.3.9)の判例より

また、指揮命令下におかれている時間とは、「使用者の明示又は黙示の指示による」と考えられるとされています。
つまり、始業時間前にほぼ全ての社員が出社し準備作業や朝礼などをすることが常態化しているような状況、体操に参加しなければ注意されるような状況などという客観的に見て労働者の自由意思が働かないような状態であれば、直接的に指示がされていなくても指揮命令下にあると判断される場合があるということです。

今回のスズキの場合も体操は任意参加としていたようですが、実態として指揮命令下におかれている状態であると判断されたわけです。
労務管理の徹底がいかに大切かということを改めて感じるケースだと思います。

以下に所定時間外の事象で業務か業務でないか争点になりやすいものをまとめてみました。
参考にして頂ければと思います。

【所定時間外の行為に関する業務に当たるか否かの目安】