社員と会社を守るハラスメント対応とは

最近ハラスメントに関する問題が次から次にと明るみになり報道を賑わせています。
そうした問題を見るたびに私が感じるのは「ハラスメントに対応する組織の認識不足」です。

マスコミが取り上げるものは、テレビなどで取り上げられるという特殊性もあることから、問題が大きくなるのはある程度やむを得ないという側面もあるのだと思います。しかし、その結果、第三者があれこれ言ったり騒いだりすることで、問題の本質がぼやけてきたりしてくることが多くなっていないでしょうか。また、なによりもハラスメントを受けた当人のことが置き去りにされているということが起きていないでしょうか。
こうした、問題の本質がばやけたり、ハラスメントを受けた当人のことが置き去りにされたりということは、ハラスメントという行為を受けた人(以下被害者)の心情を考えれば、とてもきついことであることは容易に想像できるのではないでしょうか。

ハラスメントについては、単純にそういう話があったからということで短兵急に事を進めてはなりません。

事実確認をし、被害者がどう考え何を望んでいるのかをきちんと確認したうえで、適正な対応をしていくことが肝要です。
適正な対応には、被害者の話だけでなく、相手方(=行為者)の、また必要に応じては周囲の話も確認していくというプロセスも必要です。

また、被害者本人からの申し出でない場合も注意が必要です。

なぜならば、内容によっては、本人が恐怖などから今すぐの対応を望んでいない、あるいは、どうして良いか悩んでいたり、わからなくなっているということがあるからです。
そうした状況の時に、被害者本人の思いを置き去りにして周りが騒ぎあれこれ言ったり動いたりすることは、良かれと思ってのことであっても、結果的に被害者本人をさらに苦しめてしまう、つまり、二次的なハラスメントをしてしまうことになる可能性があるということなのです。

だから、組織として、もしハラスメントという事案が自分たちの組織で起きてしまったら、どのように対応していく必要があるのかを正しく理解し、そのための体制づくりをしっかりと整えておくことは、社員を守り、会社を守るためとても重要なことだと言えるのです。

では、その体制とはどういうものを作り、万が一ハラスメントの相談があった時にはどういう対応をしていくことが望ましいのかについて確認していきましょう。

ハラスメント対応体制の整備

相談窓口を設置し周知する

社員が「これってハラスメント?」と感じた時に、どこに相談したら良いのか、迷わないように相談窓口を設置し、それを社員に周知しましょう。

相談窓口の担当者は、社内で信用されている人事総務などの人間を任命するのが良いでしょう。
また、中小企業など人員的にそうした適任の人間を任命するのが難しいという場合には、外部に委託するのも一つの方法です。

相談窓口を設置したら、そこへの相談手段(メールなのか、電話なのかなど)を明確にし、それを社員全員へ周知します。
その際、相談したことは、本人の同意がない限り相談を受けた担当者以外には共有されないことを明記しておくのが良いでしょう。

話を聴く

ハラスメントの相談があった場合は、まず相談者の話をしっかりと聴きましょう。

ハラスメントの相談があった時に大切なのは、相談したことで不利益な取り扱いをしない、意に沿わない対応をしないということです。

最終的に調査した結果、ハラスメントではないと判断せざるを得ないような相談でも、最初に相談があった時に、相談を受けた者が「それは勘違い」だとか「気にしすぎ」などと言ってしまえば、相談者との信頼関係は構築されません。
結果、「会社に話しても無駄」だと感じ本心を話してくれなくなったり、会社の判断や対応に不満を抱いたりして、外部に相談に行ったり、被害者本人が会社を辞めてしまったりということが起きてしまうリスクが高まります。

なので、一番最初に相談を受けた時は、相談者の話をよく聴き、どうしてほしいのか、本人の意向を確認しましょう。

動くべきか否か確認する

また、その時に忘れてならないのは、本件について、すぐに対応してほしいのか、それとも迷っているのか、相談者の気持ちを正確に確認するということです。

相談に来る時点で、相当の勇気を振り絞って来ていることが多いのですが、だからといって、すぐに対応してほしいのかというとそうとは限らないことも往々にしてあります。

確かにハラスメントが起きている可能性があるのであればすぐに対応すべきという考え方もあるのですが、ハラスメントの問題は、そう単純なことではなかったりします。
良かれと思って対応したことが、被害者の不安や羞恥心を増幅させてしまったり、「自分が我慢すべきだったのではないか」と自分を責めてしまうかもしれないデリケートな問題なのです。

なので、まずは本人の意向を踏まえ、迷っている時は待つ!ということも必要なことなのです。
そして、待つ時は、「何かあったらすぐに動けるようにしておくからね」というように、いつでもバックアップするから…という安心感=一人じゃないということを伝えておくこと。
これが大切だと言えます。

動く時は事前に相談者と共有する

さて、相談者の気持ちの整理がつき、いざ具体的に対応をするとなった時に気をつけることです。

できうる限り「周りの人で証言してくれそうな人は誰?」「明日の〇時に××さんからヒアリングする」など、会社としての動きを相談者に伝えておきましょう。

細かいことや守秘すべき内容まで全てを共有する必要はありませんが、少なくとも加害者といつ面談するかなどは、事前にわかっていれば相談者も心の準備ができますので、配慮すべきと言えるでしょう。

必ず双方の話を聴く

上述したように相談者の確認が取れてからということになりますが、事実確認の際は、必ず被害者と加害者(と想定される者)双方の話をしっかりと聴きましょう。

そうすることで、何が真実かが見えてくる確率が高まりますし、判断すべきポイントも見えてきます。

少なくとも一方の話だけを鵜呑みにして短兵急に判断しないことが大切です。

判断基準に照らして公正に判断する

セクシャルハラスメントは男女雇用機会均等法、マタニティハラスメントは育児・介護休業法、そしてそれらに関するガイドラインで、法的にその定義や判断基準は明確になっています。
しかし、パワーハラスメントに関しては、現時点では法的な定義や判断基準は明確になっていません。
ただ、厚生労働省がパワーハラスメントの6類型を示していますので、それに照らし合わせることで一定の判断は可能です。

ハラスメントの調査においては、ヒアリングなどによる事実確認をふまえて、上述した定義や判断基準を基にハラスメントがあったか否かの判断をします。

社内規定により適正に処理する

ハラスメントがあったと判断した場合、加害者に対する処分などを行うことになります。

その際に押さえておくべきポイントは2つ

①被害者の意に沿わないことはしない
②就業規則などの規定に基づいて処分を行う

ということです。

①の被害者の意に沿わないことはしないというのは、何でも被害者の言う通りにしなければならないということではなく、まずは被害者に不利益なことはしないということです。
例えば、同じ職場で働くのはつらいという申し出に対し、本人が望んでいないのに一方的に被害者本人を異動させたり、仕事の都合を優先して加害者をいつまでも同じ職場にいさせたりなどいった対応をしないということです。

どうしても加害者が管理職ということが多いため、仕事のことを考えて・・・となってしまいがちですが、ハラスメントという事実があり、被害者が同意していないのであれば、それは許されないということになります。
だからこそ、社内でハラスメントをしないさせないということが大事なのです。

②の就業規則などの規定に基づいて処分を行うについては、処分するには、きちんとハラスメントは許さない、だからそうした言動はしてはならない、そして、どういう言動がハラスメントにあたるのかを就業規則をはじめとした規程で明確にし、もしハラスメントにあたる行為をした場合は、どのような処分をするのか…ということを予め定めておく。
そして、それに基づいて適正に処分を行うということです。

組織として何かことが起きてから都度都度対応を考え対処していくのではなく、予め何をしたら駄目なのか、そして、それを破ったらどうなるのかを定め、それに従って公明正大に対処していくことで、社内の納得感も高まりますし、何よりも再発防止などの抑止力につながります。
さらには、予防にもつながることでしょう。

また、逆に言えば、きちんと規定していなければ、ハラスメントが起きてしまった際に、適正な処分が行えないということになってしまいかねないとも言えるのです。

だからこそ、就業規則やハラスメント防止規程、懲罰規程などをきちんと整備しておくことが肝要なのです。

相談対応者の教育

ハラスメントは、職場や仕事の場で起きるから「ハラスメント」と言われるのです。
同様のことがプライベートで起きれば、例えば、セクハラの場合は「婦女暴行」や「公然わいせつ」、パワハラの場合は「暴行」や「名誉毀損」などといったものになる可能性のあるものです。

でも、ハラスメントに関しては、職場や仕事の場で起きることなので、まずはその組織に適切な対応を取ることが求めれているのです。

だから、上述してきたように組織としてきちんと相談体制およびその手順を定めることが大切なのです。

が、いくらそうした整備を進めても、相談を受ける者がきちんとその主旨を含め手順を理解し適切に対応しなければ何の意味もありません。

なので、「相談を受ける者を誰にするか」という人選と合わせ、選んだ担当者にきちんとした教育を組織として行うことが重要と言えるでしょう。

周知する

組織としてこうした体制を整備したら、トップから「我々はハラスメントを絶対に許さない」というメッセージを発信しましょう。

そして、それをふまえ

●ハラスメント予防のための教育
●相談窓口と相談体制の周知

をきちんと行いましょう。

そして、これらのことは一度行ったら大丈夫ではなく、最低年1回程度定期的に、また入社時に、などといったタイミングで適宜実施し、全社員が共通の認識を持つようにしましょう。

そうした取り組みが、ハラスメントのない安心して働ける職場環境を醸成していく一助になるのです。
また、組織としても、重要な役割を担っていたり、組織にとって必要な人財を失うリスクが減ることになりますし、生産性の低下を防ぐことになるでしょう。

そして、そうしたハラスメントのない働きやすい職場であることは、長期化する人手不足の雇用情勢において、働き手の集まる選ばれる企業となることにもつながってくることだと言えるでしょう。

ぜひこれを機に自社のハラスメント対応体制について確認してみてください。

ヒューマシー人事労務研究所では、ハラスメントの予防から対応体制整備、そして個別対応へのアドバイスなど、ハラスメントに関するコンサルテーションを提供しています。
ぜひご相談ください。

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