固定残業代の何が問題なのか?固定残業代を正しく運用する方法とは・・・

固定残業代とは

固定残業代は悪なのか?

固定残業代

最近、何かと問題とされる残業手当を支払う仕組みですが、その問題の多くは、その仕組みを正しく運用していないという点にあります。
固定残業代は、そもそもみなし残業代という仕組みで、みなしと言われるとおり、その時間分残業しても、しなくても、あらかじめ定めた残業時間分残業したものとみなし、その時間分の残業代を給与支給時に支払うというものです。ということですので、固定残業代という仕組みを導入する場合には、何時間残業したものとみなすのかを、あらかじめ定め明確に示す必要があります。そして、このあらかじめ定めた残業時間分の残業代を計算して支払う必要があるのです。

さて、いかがでしょうか。
このように固定残業代は、残業代として支払う根拠と計算を明確にしていくべきものなのです。が、固定残業代は固定で残業を支払うものなので便利な仕組みだと考えて導入している企業が多かったりしないでしょうか。
先日のニュースでも報じられましたが、厚生労働省の労働政策審議会で虚偽の求人(いわゆるブラック求人)に対する罰則強化を盛り込んだ職業安定法の改正案提出が検討されています。その中には、残業代を除いた明確な給与を示すことを義務付けすることも含まれているようです。
※参考<2016年12月13日付朝日新聞>

ただ、間違えないで頂きたいのは、固定残業代という仕組みそのものが、必ずしも悪というわけではないということ。そこで、今回は、この固定残業代という仕組みについて正しく運用していくためにおさえておくべきポイントを整理してみたいと思います。

ポイント1:みなし時間を明確にする

上述したように固定残業代は、みなし残業代のことです。
みなしということですから、何をどうみなすのかを明確にする必要があるわけです。
で、何をみなすのかというと、残業代として支払う根拠となる時間を、その時間までしてもしなくても、その時間したものとみなすということになります。ですので、まず固定残業代として支給するのは、何時間とみなすのか・・・これを明確にする必要があるわけです。

ポイント2:みなし時間に基づいて残業代を計算する

残業代はどう計算されるのか。このことを再確認しておきましょう。

残業代は、計算基礎賃金(賃金総額ー法定除外手当)÷1ヵ月当りの平均所定労働時間数×1.25 で残業単価を算出し、その月の残業時間数をかけて計算します。
※計算式については、月60時間を超えた場合は50%以上の割増しにするなど細かい点はありますが、基本的なものとしてご理解ください

で、ここで理解しておいて頂きたいのは、残業代として支給する以上、上記の計算式(=個々の賃金に基づく割増し単価と時間数)に基づいて計算されなければならないということです。したがって、この原則からすれば、正しく計算された残業代の金額を対象社員全員が超えた金額を支給されていれば問題ありませんが、そうでなければ、固定残業代が全員一律〇万円という固定金額であるはずはないのです。ですので、固定残業代制度を入れるのであれば、きちんと個々に固定残業代を計算するようにしましょう。

ポイント3:みなし時間を超えた場合は別途残業代を支給する

残業代は、時間外勤務をした時間分きちんと支払いをしなければなりません。裁量労働制など一部の仕組みでは、相当の裁量権を労働者に与えることにより時間外労働という観点とは異なる賃金体系を組むことは可能とされていますが、そうしたもの以外では、この考え方はなくなりません。
これは、よく勘違いしやすいのですが、年俸制を適用していても同じです。年俸制だから残業代は支給しなくて良いというわけではないのです。お間違いないようご注意ください。
ということで、固定残業代を導入している場合でも、みなしで設定している残業時間を超えた場合は、その時間分については、きちんと計算して固定残業代とは別に支給しなければなりません。その際、給与明細の記載については、固定残業代とそれを超えた残業代は、別に明記して支給したほうが良いでしょう。

ポイント4:従業員へ周知する

固定残業代を適用する場合は、どの職種に、何時間分を、固定残業代として支給するのか、その計算根拠も含め、対象となる従業員に周知しましょう。よくあるのは、「うちは残業代も含めて支給しているから何時間残業しても残業代は支給してある」というような曖昧な説明で済ましているケースです。このようなケースでは健全な労使関係を築くことは難しくなります。労働条件はきちんと明示し周知する、このことを忘れないようにしましょう。
そのためには、まずはきちんと就業規則や給与規程などに、固定残業代制を導入していること、その内容についてきちんと明記することが必要でしょう。
 
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ポイント5:求人票に明記する

社員を募集する際にも、固定残業代制を導入していることを明記するようにしましょう。
具体的には、基本給と固定残業代を分けて表記します。その際に、固定残業代のみなし残業時間は何時間なのか、そして、そのみなし残業時間を超えた場合は別途残業代を支給すること、こうしたことを記載しておくと良いでしょう。
上述しましたが、求人の際に、基本給と固定残業代合わせて給与として表記するだけで、誤解や勘違いを生む求人が増えており、国も問題視しています。きちんと対応するようにしましょう。

固定残業代を活用するには

ここまで固定残業代を運用するうえでおさえておくべきポイントについて確認をしてきましたので、固定残業代に関する問題についてもある程度理解頂けたのではないかと思います。
固定残業代については、このようにおさえておくべきポイントがいくつもあるわけですが、正しく仕組みを理解していないと、固定残業代は「残業代の計算が楽にななる」とか「残業代を固定で払えばいいんだ」というような誤った解釈をしてしまいやすいという側面がある仕組みと言えます。悪意を持って運用するなどは言語道断ですが、気をつけないと知らず知らずのうちに法律違反を犯してしまっていることもあり得るので、そうしたことが固定残業代に関する問題の一つになっていると言えるでしょう。
固定残業代を考える時、まず、このことを理解する必要があります。つまり、固定残業代(=みなし残業代)については、その仕組みそのものが問題というわけではないということです。

そもそも、残業代という考え方のベースには、労働は時間によって管理するという労働基準法の考え方があります。労働基準法は、第二次世界大戦が終戦して間もない昭和22年(1947年)に公布されたものです。その後、時代に合わせ改正をしてきていますが、労働の対象として想定されているのは、当時日本の主要産業であった炭鉱労働や工場労働などが中心となっています。いわゆるブルーカラーと言われる職種です。そうした職種においては、始業時間と終業時間を一斉に定めた労働管理がメインとなるので、当然時間をベースとした労働管理となるわけです。
しかし、近年の労働環境は、多様化し複雑化しており、日本における主要な労働の中には、IT産業やサービス業など知的創造性を求められるものも増えてきています。いわゆるホワイトカラーと言われる職種です。こうした職種においては、能力や成果によって仕事を評価する仕組みが必要になります。そうなってくると、労務管理も単純に労働時間だけで行うと、いろいろな矛盾が生じてくるわけです。
例えば、同じ業務を2人に同時に依頼したとします。その2人には、その業務に関する能力・スキルに大きな差があります。そうすると、仕事の高い成果を出すのも、それにかかる時間が短いのも、おそらく能力・スキルの高いほうの人でしょう。そして、能力・スキルの劣る人のほうは、仕事の成果ももう1人に比べれば劣るものになり、一定の成果を出すまでの時間がかかり、おそらく残業を(たくさん)する可能性が高いでしょう。こうした場合でも、時間だけの観点で労働管理をすれば、残業代をたくさん貰い給与の額が多くなるのは・・・ということが起きてしまったりします。
いかがでしょうか。こうした矛盾に悩んでいる企業というのは意外に多いのではないでしょうか。

こうした時に、固定残業代をうまく導入運用すると、こうした問題を軽減させられる可能性が出てきます。
その時に重要なのは、みなし残業時間を何時間に設定するか・・・です。この時間設定がうまくいけば、有能な人材は、やらなければならない仕事をみなし残業時間よりも短い時間でこなし、そのみなし残業時間との差分は、プラスアルファの給与としてもらうことができます。そして、そうでない人は、固定残業代を働いた残業手当として受け取ることになり、時間外手当を支給するというコンプライアンスと能力・成果で処遇するというバランスを、設定しているみなし残業時間の範囲で図ることができるのです。なので、先述したとおりみなし残業時間の設定が重要だと言えるのです。また、それと同時に業務の適正化を図り、その設定するみなし時間との整合性をきちんと取る・・・このことが大切です。そこまでできれば、労務管理上、長時間労働の削減、人事評価の適正化、コンプライアンス順守などを推進することができ、社員のモチベ―チョンアップ、生産性の向上などにつなげることが可能となると言えるでしょう。

あと、忘れてはならないこととして、こうした固定残業代の考え方が合う仕事、そうでない仕事がある、ということがあります。
時間をベースに管理できる、あるいはそのほうが良い仕事については、固定残業代はそぐわない仕組みであると言えます。一方、能力・成果をベースに評価する仕事に関しては、固定残業代のポイントをきちんと押さえたうえで、組織管理、労務管理上実現したいこと(目的)を明確にしたうえで活用すると良いと言えます。
くれぐれも、残業代を削減するために有効な仕組みと考えて安易な導入をしないようにしましょう。残業代を削減するのは、あくまでも業務の適正化を図り、実際に労働時間を削減するしかないということをしっかりと認識する必要があるのです。

それから固定残業代として、毎月固定で支給する手当となった場合、本来は残業時間と連動して変動する手当が、固定支給になりますので、賞与計算の算定に含む必要が出るなど、運用面での違いが出てくる項目もありますのでご注意ください。

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