会社も働く人も知っておくと良い『いいキャリアを積む』ために大切なこととは

キャリア・・・よく使われる言葉です。意味としては、職業・技能上の経験・経歴と解されますが、 具体的にキャリアと言われた時にイメージするものは、人によって異なるのではないでしょうか。

例えば、「キャリアアップ」と言った時、何をアップさせるのかということは、その仕事によってはもちろんですが、人それぞれによって異なってきます。
技術を身につけることなのか、知識を身につけることなのか、はたまたその両方なのか、あるいはとにかく仕事になりそうな資格をたくさん取ることなのか、それとも一人で仕事を完結できるようになることなのか・・・と、いろいろとあります。

そして、最近は、終身雇用が崩壊し、キャリアの積み方が変化しているため、よりキャリアということに関心が高まっていると言ってもよいでしょう。

ということで、今回は仕事を通じてのキャリアということについて考えてみたいと思います。

やりたいことが見つからない・・・?

よく「やりたい仕事が見つからない」ということを言う人がいます。
そして、そういう人に限って、何かの仕事に就いて、少し嫌なことがあったり、仕事がきつかったりすると、すぐに「この仕事は自分のやりたい仕事ではない」とか「この仕事は自分に合わない」と言って、仕事を辞めて違う仕事に移るということをしたりします。

しかし、よく考えてみてほしいのですが、どれくらいの人が、自分のやりたい仕事をしているのでしょうか?どれくらいの人が、やりたい仕事を見つけているのでしょうか・・・?
おそらく、運よくそういう仕事をしている人、そういう仕事を見つけられたという人は、そんなに・・・いや、ほとんどいないのではないかと思います。

一見、自分のやりたい仕事、自分に合った仕事を見つける、あるいは見つけようと頑張っているということがキャリアを積んでいるというように思えてくるのですが、実は、結果的にどの仕事も中途半端に終わり、職業・技能上の経験を積んだとは言えないものが増えていくことになっているという人が多いのではないでしょうか。

このように考えていくと、少し極端ですが、やりたい仕事が見つからないのは、普通のことであり、気にすることではないと考えるのも必要なのではないかと思ったりするわけです。
もちろん、やりたいことが見つかり、その仕事でキャリアを積んでいくことができる方は、そこでキャリアを積んでいければ良いと言えます。そして、そうした時にも、上述したやりたいことが見つからないのは普通のことということを理解していれば、辛いことや嫌なことがあった時や「あれ?思っていたのと違う」と感じた時にも、やりたい仕事に就けているということに対する感謝の気持ちを持って、辛いことや嫌なこと、「あれ?」と思うことを乗り越えていくことにつながる可能性が高いと言えるでしょう。
しかし、やりたい仕事というのは、必ずしも自分に合った仕事、将来的にずっと続けていくことになる仕事と同じとは限らないということも現実です。なぜならば、やりたいと考える仕事の多くは、実際にその仕事をやってはいない、何らかのきっかけで「いいな」とか「やりたい」という良いイメージを持ったものだったりするわけです。ということは、イメージが先行している場合が多分にあるわけです。その結果、イメージと現実のギャップが生じてしまうというケースが起きてしまう。その時に、イメージによる思いが強ければ強いほど、そのショックが大きいということも起きてしまうわけです。

こう考えていくと、キャリアというものは、イメージを持って見つけていくことも大切ですが、それに拘りすぎない、また、見つかなければ無理に見つける必要はないものと考えて良いものだと言えるでしょう。

では、次の章から、こうした考え方をベースに、キャリアを形成していくうえで覚えておくと良いことをいくつか具体的に考えていきましょう。

ご縁のあった仕事を全力でやってみる

やりたい仕事、自分に合った仕事が見つからなくても、社会に出れば、何らかの仕事をしていくことになります。

その時に、まずは携わることになった仕事を全力でやってみるということが大切です。

世の中には、数多くの仕事があります。しかし、私たちはその全ての仕事を知っているわけではありません。そうした仕事たちの中から、たまたまご縁があって、その仕事に巡り逢えたのです。人との出会いでもそうですが、出会ってかかわってみないと、ほんとうにその人が自分に合う人かどうかわかりません。このことは、仕事でも同じなのではないでしょうか。

自分では考えもしなかった、そうした仕事があるということすら知らなかった・・・などという仕事にご縁があって就くことになったという人が、結果的にその仕事でキャリアを積んでいく、そして、素晴らしい成果を出していくなどということは、よくあることです。
少しスピリチュアル的な話になってしまいますが、ご縁とは、今の自分に必要なものが現れる・・・と考えれば、そうしたことがよく起きるというのは必然であるとも言えます。全てがそうだとは言い切れませんが、そのように考えて、ご縁のあった仕事を全力でやってみる。最終的に、自分に合っていないとかやりたい仕事じゃなかったということは、そのうえで判断しても良いのではないでしょうか。そうしていけば、少なくとも、全力でやったということで、その仕事についての職業・技能上の経験を積んだと言えることにはなると考えられるのですから・・・。

自立と自律

キャリアということを考える時、「じりつ」という観点を持つと整理しやすい側面があります。
「じりつ」には、「自立」と「自律」の2つの漢字を当てはめることができます。そして、「自立」と「自律」・・・読み方は同じですが、その意味には明確な違いがあります。
その違いを考えてみましょう。

まず、「自立」ですが、読んで字の如く自ら立つ・・・つまり、独り立ちするということになるでしょう。
キャリアという観点で言うと、「自分で生活費を稼ぐ」「仕事を人の手を借りずに自分でこなす」ということになります。

一方、「自律」とは、与えられた仕事や役割をこなすだけでなく、自分は何をすべきかを考え、仕事や役割を作り出して責任を持ってあたること・・・つまり、自立したうえで、もう一歩進んで責任感を持って仕事に取り組むことといえるでしょう。

昔の日本のように、高度成長で市場がどんどん拡大し仕事も増えていた時代は、自分で考え行動してしまう自律型の人材よりも、言われたことや決められたことを独り立ちして黙々と一生懸命に行う自立型の人材が重宝されたと思います。そして、その所属する組織の視点でキャリアを磨いていくということが一般的だったと言えるでしょう。

しかし、バブル崩壊後、年功序列終身雇用という高度成長期の日本企業の人事システムは、企業にとって維持することが難しくなり、組織の視点で、自立型のキャリアを提供していくことに限界がきているといっても過言ではないでしょう。つまり、所属する組織を軸にするだけでなく、個の視点からキャリアを考え磨いていくということになるわけです。

なので、会社も、働く人個人も、人材育成やキャリア開発、キャリア形成ということにおいて、これまでの考え方をがらっと変えていく必要もあると言えるのです。そして、そこには、自己責任という厳しさもついてくるということ忘れてはならないのだと言えるのです。
ある意味、厳しい時代だと言えますが、だからこそ・・・自らを律する・・・このことができるかできないかで個々の差が生まれるということを覚えておくべきでしょう。

キャリアアンカー

「キャリアアンカー」という言葉を耳にされたことがあるでしょうか?

アメリカの組織心理学者エドガー・H・シャイン博士が提唱したキャリア理論です。

個人がキャリアを選択する時に、自分にとって一番大切にしたい、これだけは譲れないという価値観や欲求、能力や動機…などを指します。
この譲れないというものを船の錨=アンカーに例え、キャリアアンカーと呼びました。

この考え方の基本になるのは、短期的な「何をしたいのか」よりも、長期的に「どういう風に仕事をしていきたいのか」ということに視点を置いているところです。

8種類のアンカー

シャイン博士は、このキャリアアンカーを8つに分類しました。

①専門・職能別コンピタンス(力量)
自分の専門性や技術が高めたい、そのことに何よりも幸せを感じる

②全般管理コンピタンス
集団を統率し、権限を持って、組織の中で責任ある役割を担うことに幸せを感じる

③保障・安定
安定的に1つの組織に属することで、社会的、経済的な安定を望む

④起業家的創造性
リスクを恐れず、クリエイティブに新しいことを生みだすことを望む

⑤自律と独立
組織のルールや規則に縛られないで、自分のやり方で仕事を進めていくことを望む

⑥社会への貢献
社会を良くしたり、他人に奉仕したりすることを求める

⑦純粋なチャレンジ
解決困難なことや問題の解決や手ごわいライバルとの競争にやり甲斐を感じる

⑧ワークライフバランス
仕事と個人的な欲求と家庭のバランスを保つこと、調整することを重視する

自己分析と人事に活かす

先に、『やりたいことが見つからない』でも書きましたが、よく・・・仕事をころころと変えたり、「仕事がつまらない」「やり甲斐が感じられない」と言う人がいます。
こういう人は、「何をしたい」ではなく、「どういう風に仕事をしていきたいのか」という視点で、上述したキャリアアンカーの「どれが自分に当てはまるのだろう」と、一度考えてみることをおすすめします。そうすると、これまで気づかなかった自分の大切にしたいことが見えてくると思います。そうすれば、長期的な観点で、自分のキャリアということを考えてみることができ、今何をすべきなのかに気づくことが可能になるのではないでしょうか。

キャリアアンカーということを知っていると、キャリアや自分の将来に、悩んだり、不安になったりした時に、少しは冷静に自己分析をすることができるかもしれません。ぜひ覚えておくとよいでしょう。

また、会社や組織としても、社員それぞれのキャリアアンカーを把握することで、人事的に、適材適所の人員配置や効果的な研修体系の構築に活かすことができたりします。
社員の「自律」を促し、各々のキャリアを充実させて、社員を自社の事業にどう活かしていくのか・・。これを実行するために、キャリアアンカーという視点を活用していくというのも有りだと思いますが、いかがでしょうか。