部下の話をきく時に気をつけること

部下が上司に対して感じる不満

部下が上司に対して不満に感じることの中で、昔から常に上位にあがってくるものがあります。

それは・・・

「上司が話を聞いてくれない」というものです。

今年9月にリリースされた『職場を幸せにするメガネ~アドラーに学ぶ勇気づけのマネジメント~』の発行元である株式会社まる出版が行った「上司にとられて嫌だと感じる行動に関する調査」でも、上司に取られて嫌と感じる行動の1位が「こちらの意見を聞いてくれない」になっています。

そういう意味では、「上司が話を聞いてくれない」はベストセラーな不満だといえるでしょう。

しかし、よく考えてみると、昔から不満にあがっているということは、おそらく上司である管理職自身もその昔、上司に対して「私の話、ぜんぜん聞いてくれないんだから」と不満を頂いていたのではないでしょうか。

それなのに、なぜか自分が上司になったら、自分が同じようなことをしている・・・
これはどうしたことなのでしょうか?

その理由は、いろいろ考えられます。

人は自分がされてきたように、自分も同じ立場になると、知らず知らずに同じようなことをしてしまうということもあるでしょう。
しかし、そうした理由のほかに次のようなこともあるのではないでしょうか。
それは、ほとんどの人が、「きく」ということについてきちんと理解しておらず、聞いたつもりになっている、ということです。

そういうことで、今回は、この「きく」ということについて考えてみたいと思います。

「きく」には種類がある

さて、皆さん、「きく」には種類があることをご存知でしょうか。

実は、「きく」には、3つの種類、いや、段階といったほうが適切かもしれませんが、そうしたものがあるのです。

私たちは、まずこのことを認識する必要があります。

それでは、「きく」の種類を順番に確認してきましょう。

まず、1つ目の「きく」は、「聞く」です。

「聞く」は一番よく使われる「きく」ですが、端的にいうと「相手の話を耳で聞いている状態」をいいます。
少し極端ですけど、わかりやすいように表現すると、音として耳に入ってきている状態といえばいいでしょうか。
話はちゃんと聞いてはいるけれど、「きく」の段階としては、初級段階といえるでしょう。

では、次の「きく」にいきましょう。

2つ目の「きく」は、「聴く」です。

これは、いわゆる傾聴、つまり注意して相手の話を聴いている状態です。
聞くよりも一段階望ましい状態であるといえるでしょう。

「聞く」と「聴く」の違い

「聞く」と「聴く」
漢字で書くと、どちらの漢字にも耳が入っていますが、「聴く」には、それに+(プラス)目と心が入っています。
つまり、聴くは、相手をちゃんと目で見て、相手の話すことに心を寄せて聴くということになるのです。
このほうが、相手も「自分のことを大切にしてくれているな」と感じることは明らかでしょう。

ちなみに「聞く」という漢字の語源ですが、人が門に耳をくっつけて門の向こう側の音や話を窺っているということです。
ということは、相手と面と向かってという状況ではないわけですから、そうした点でも「聴く」との違いが歴然でしょう。

だから、相手の話をきく時は、聞くよりも聴くを心掛ける必要があるといえます。

まずは「聞く」と「聴く」の違いを意識して、ぜひ相手の話を聴くようにしましょう。

聴く時に覚えておくと良いこと

ただ、私も経験がありますが、「聞く」のではなく「聴く」ということを意識していたとしても、日々の業務の中では、仕事が立て込んでいたりすると、ついつい「聞く」になってしまっていたりします。

こうしたこと防ぐために具体的にどういう風に「聴く」と良いのか・・・そのことについて少しお話しておきたいと思います。

まず、聴く時の姿勢についてです。

管理職であるあなたのところに部下が話をしにくる場合、あなたが自分の席にいるのであれば、多くの場合パソコンにむかっていることでしょう。

その時、あなたは、どのように部下の話を聴いているでしょうか?

きちんとパソコンを打つ手を止めていますか?
相手のほうに顔(できれば体も…)を向けていますか?

さて、いかがでしょう?
意外とできていなかったりしませんか?

もしそうだとしたら、相手に「ちゃんと聴いてもらえていない」と感じられている可能性が高いといえるのです。

だから、相手から話かけられたら、パソコンを打つ手を一旦止め、相手のほうに顔、できれば体を向けて「はい」と笑顔で応えましょう。
それだけで、相手は「自分を大事にしてくれている」と感じるはずです。

そして、そうすることであなた自身にも話を聞こうというスイッチが入るのではないでしょうか。
そうなれば、少なくとも「ちゃんと聴いてもらえていない」と相手が感じることはないでしょう。

最悪なのは・・・

パソコンを打つ手を止めず、画面を見ながらに話を聞く
「今忙しいんだけど、後にしてくれ」と門前払いにする
そうは口に出さないけど、面倒くさそうにする・・・などです。

「そんなことするはずないじゃないか」とおっしゃる方もいると思いますが

実はこれ、意外と知らず知らずのうちにやっている管理職が多いのです。
特に、忙しい時、急いでいる時に無意識にやってしまいがちです。気をつけましょう。

途中で口を挟まない

さて、パソコンを打つ手を止め、顔、あるいは体を相手のほうに向け、「はい」と笑顔で返事をしたら、その後どうすれば良いかということをお話していきたいと思います。

まず、相手のほうを向いて話を聴く準備ができたら、できるだけ口を挟まずに相手の話を最後まで聴きましょう。
よくあるのは、相手の話を途中まで聞いて、自分で勝手に話の流れを想像して話始めてしまう・・・
ひどい場合は、「だから〇〇でしょ」などと結論を言ってしまう・・・しかし、実は部下の話したいことは別のことだった・・・なんて笑い話にもならないケースがあったりするのです。
こうなると、相手は「この人に話しても無駄」という気持ちになり、ほんとうに話したかったことなんて話してくれなくなるでしょう。

だから、途中で口を挟まずに相手の話を最後まで聴くことが大切なのです。

ちなみに、漢字で書くと「聞く」にも「聴く」にも耳が入っていると上述しましたが、「聞く」と「聴く」の漢字をよく見ると、耳という漢字の下の横棒・・・耳では右の縦棒を突き抜けていますが、「聞く」と「聴く」では突き抜けていません。
これは俗説ではありますが、「聞く」時も、「聴く」時も、出しゃばらないという戒めが含まれているとも言われています。
こう考えると、途中で口を挟まず相手の話を最後まできくということが、漢字ができた昔からなかなか難しいことだと認識されていたと考えられるのかもしれません。

だからこそ、途中で口を挟まずに相手の話を最後まで聴くということを、私たちは意識していなければ自然とはできない・・・そういうことなのではないかと思ったりもするわけです。

聴き方として有効なのは…

そして、そういう事態を起こさずに相手の話を最後まで聴くための聴き方として有効なものがあります。

それが、「相槌(あいづち)」と「鸚鵡(おうむ)返し」です。

相手の話を黙ってずっと聴くというのは、疲れるものですし、相手も「ちゃんと伝わっているのか?」と不安になったりします。
そこで「相槌」と「おうむ返し」の出番となるわけです。

「相槌」とは・・・

「はい」とか
「うん、うん」とか
「なるほど」とか
「へぇ~」とか
「それから?」・・・など

相手の話の合間に、相手の話に同意したり、驚いたり、話を促したりする、合いの手とでもいうのでしょうか・・・そういうものです。

皆さんも「この人に話と気持ちいい」と感じる人がいると思いますが、そういう人ってこの相槌がうまい人だったりするのではないでしょうか。

また、「おうむ返し」ですが・・・

これは、鸚鵡が、人の言葉を真似るように相手の話した言葉をそのまま返す合いの手のことです。

相手が「つらかった」と言えば、「そうか、つらかったんだね」と返す。
「困っている」と言えば、「困っているんだね」と返す。

こんな感じです。

これは、簡単なようですが、意外と難しいテクニックです。

なぜなら、相手の話をちゃんと聴いていないと返せないからです。

だから、話を聞いている途中で自分の意見や考えを言ってしまう人には、それを防止するのに有効だったりするのです。
どうしてかというと、途中で自分の意見や考えを言ってしまう人は、相手の話を聞きながら頭の中では自分の話したいことをあれこれ考えていて、相手の話をちゃんと聴いていなかったりするのですが、おうむ返しを意識することでそうした事態を軽減できるからです。

「おうむ返し」ぜひ意識してやってみてください。

さて、改めて聴き方についてまとめると・・・

パソコンなど何か作業をしている時は、その手を止めて相手のほうを向き、(笑顔で)相槌を打ちながら、適度におうむ返しを入れながら聴く

こうすることで、相手は、あなたのことを話をちゃんと聴いてくれる信頼できる人と感じてくれることは間違いないでしょう。

さて、ここまで「聴く」についてお話をしてきましたが、いよいよ最後3つ目の「きく」のお話に移りたいと思います。

3つ目以降の「きく」は・・・

次は3つ目の「きく」のお話です。

3つ目の「きく」は、何でしょうか・・・

それは

「訊く」 です。

これは、たずねること。つまり、相手の話に対し、質問をしながらより理解しようとすることになります。
相手の話に対し、相手を目できちんと見て、心を寄せて聴き、話を遮らないように気をつけながら、必要に応じて質問を投げかけて、相手の話を引き出していく、あるいは相手の話をより理解しようとする、そういうことを「訊く」といいます。
上述した「相槌」や「おうむ返し」も、この「訊く」の一つといえるでしょう。

ただ「訊く」は、きき方を間違えると詰問しているようになってしまいますので、なかなか難しいきき方です。でも、これができれば、話をしている相手は、きっと「自分を大切にしてくれている」と感じることになり、良い信頼関係を築いていくことができるでしょう。
そのためには、部下に関心を持ち、部下を下ではなく、一人の人間として尊重していく必要があるでしょう。
特に管理職の方には、この「訊く」は、ぜひ実践して頂くとよいと思います。

ここまで、3種類の「きく」をご紹介きました。
いかがだったでしょうか。

職場では、この3つのきくを、正しく使いわけて、相手を大切にできるといいと思います。
特に部下を持つ管理職の方に、この使いわけを身につけて頂けると、職場風土は格段に良くなることが期待できるはずです。

そして、この「きく」の3段活用に関連し、このコラムを読んで頂いた皆さんへだけこっそりお話したいことがあります。

それは・・・

実は「きく」には、もう1つ、隠れキャラの「きく」があるということです。

この隠れキャラは、特に管理職の方に力を与えてくれる「きく」といえます。

さて、それは何かというと・・・

それは、「効く」ということです。

これまでお話してきた「きく」の3段活用を適切に実践していくことによって、

・管理職としてのあなた自身の信頼を高める効果
・信頼関係と良好なコミュニケーションに基づいた良い職場風土へと繋がる効果・・・etc.

いろいろと良い影響が起きるように、職場の活性化にポジティブに「効いて」くるのです。

皆さんも、「きく」の3段活用を実践して、ぜひこの「きく」の隠れキャラ「効く」を手にしてください。
そうすれば、きっと部下が抱く不満のベストセラーである「上司が話を聞いてくれない」が、あなたの職場からなくなることでしょう。

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